確信的な恋の脆弱性

春になると、誰だって恋愛小説が読みたくなる。風は北から南に変わり、夜がだんだん短くなる。公園のベンチに腰掛けて文庫本を開くには、春ほどふさわしい季節はない。というようなことを、きっと僕は秋にも言っていることだろう。

やりたいことや、やななければならないことは、山のようにある。だって、春だもの。新しい学期、新しいテキスト、散歩、ギター、写真も撮りたい。だけど、喫茶店に入ればとりあえず文庫本を開かずにはいられない。電車に乗れば眠らずにはいられないのと、同じだ。

今日紹介するのは、越谷オサムの「陽だまりの彼女」という小説です。それほど有名ではないかもしれないこの著者を知らない人も多いと思います。僕も友人に勧められて初めて読みました。

Amazonのレビューを見る限りは、一概に素晴らしい小説というわけでもないようです。レビューは高いものから低いものまで様々です。ちなみに僕は、とても気に入りました。だから、僕がいつもこのブログで紹介している本を好きな人なら、きっと気持ちよく読めると思います。

社会人になってから幼なじみと再会して…って感じの超ベタな恋愛小説かと思わされます、最初は。最初というか、前半ずっとそんな感じです。おいおい!と思っているうちに、読者は引き込まれてしまいます。恋の脆弱性(伏線とも言うかもしれない)は物語の始まりからしっかりと存在しているからです。読み進めていくうちに、読者が抱く不安は次第に確信的になっていきます。確信的な脆弱性です。そして、クライマックスになると、読者は不安の頂点から一気に崖の底へと突き落とされるのです。

恋愛小説でもあり、ミステリーでもあり、ファンタジーでもあるかもしれない。そんなよく分からない小説です。ただでさえよく分からない春という季節を、一層分からないものにしてもいいなら、これを読むべきだと思います。ただひとつ言えることは、泣けるということです。深い霧を抜けると、そこには初夏の晴天が広がります。

さあ、陽だまりの心地よい季節が来ます。

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陽だまりの彼女(越谷オサム)

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