先日紹介した中原みすず「初恋」(新潮文庫)について調べてみると映画化されていることを知り、しかも主演が宮崎あおいということで、TSUTAYAで早速借りてみた。ちなみに、諸事情も重なり1泊2日のプレ帰省をしたため、実家のデカいプラズマテレビで観た。当然だが、ラップトップの液晶なんかとは天地の差である。
そもそもTSUTAYAに行ったのはこれを借りるためではなかった。某友人が英語のテスト対策のためローマの休日を買いたいということで、その買い物に付き合ったのだが、そのときにふと思い出したのだ。ところで、ローマの休日は定価約2,800円だが、対象のDVDを3本買うとセットで3,000円になるということで、結局私が2本も買うことになった。「俺っていいやつ」と思わざるを得ない。ちなみに、買ったのは「レオン(完全版)」、「十二人の怒れる男」の2本。どうせ買うんだから、今までに見たことがあって素晴らしかったものからチョイスした。不毛な出費にならないために。だけど、一度観たものを買う時点で不毛だと言われれば返す言葉はない。
前置きが長くなった。もちろん「初恋」はレンタルだ。テスト期間だと思って1週間にしたけど、結局1泊でよかったな。とか思いつつ、レビューをしてみよう。
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初恋 スタンダード・エディション [DVD]
☆の数で表せというなら、お世辞含めて1/5だ。今まで観た映画の中で、俺のワーストランキングに入ってしまった。ランキングに入っただけであって、ワースト1位というわけではないのだが、それでも再び見ようとはとうてい思えない。Amazonのアフィリエイト・リンクを貼っておきながら、お世辞でも褒めれば?と思った方もいるかもしれないが、そんなことして誰かが買ってしまったらかわいそうじゃないか。それに、基本辛口でないと、本当によい作品をレビューするときにコントラストがなくなってしまうでしょう。そういうことですよ。
さて、どこがダメかということを述べる責任があるでしょう。まず、脚本です。中原みすずの原作は俺の書籍ランキングに入ったというのに、その映画化がワーストランキングに入るとは、結局突き詰めれば脚本の問題でしかない。本は文庫で200ページを切る短さなのに、それを2時間の映画にしているところから無理がある。典型的な日本映画という感じのセリフの少なさ、シーンの流れ、カメラの動き。要するに、ぬるい。せっかくのいい題材なのに、テンポの悪さがそれを台無しにしている。
ただ、この作品の伝えたいところは、(原作を読んだ後だからかもしれないが)それなりに伝わってくる。このテーマは「恋」でもなければ「初恋」でもない。Amazonレビューを見てみると、しばしば「すばらしい恋愛ストーリー」のような書き込みがあるが、それは違う。原作と映画と両方を通して私が感じたところでは、この作品の描こうとしている要素は、孤独、自分とその存在、居場所、権力との闘い、時の流れであり、なにより「喪失感」なのだ。みすずは仲間に出会い、孤独から逃れることができたかのようだが、結局またみんないなくなってしまう。残るものは、消せない記憶だけ。最後の展開が急するとか、極端すぎるといった意見も聞かれるだろうが、私はちょうどいいと思う。描かれるべき「喪失感」はこの流れじゃないと引き立たないから。
こうしてレビューを書いていても、未だに整理がつかない。この映画はいったい何なんだろう。フィクションなのか、ノンフィクションなのか、それさえもわからないし、「みすず」はどうなったのかもわからない。駄作と言っておきながらも、なぜ最後のシーンで泣けてしまうのか、それもわからない。それはきっと、みすずが最後に「生きること」を取り戻すからなんじゃないかな。そんな気がした。
最後のシーン(チャプター17)は原作には書かれていないセリフが語られる。実際にしゃべっているのか、心の中でしゃべっている設定なのか、その判断はできない。というのは、そこの画面は一人称的視点で描かれているからだ。そのシーンは、みすずの未来を想像させるようでもあるし、みすずの終わりを思わせるようでもある。チャプター17は、ほんの1分弱のセリフと、エンドロール。セリフはごく簡単に聞こえるが、しっかり聞いてみると実によく考えられていることがわかる。テーマ曲は元ちとせの「青のレクイエム」という曲なのだが、これは素晴らしい。作品にピッタリなのだ。私なんか、ノリでmoraで購入してしまった。
まあ、結論的には、買ってまで観るほどじゃないけど、余力がある人は借りて観てみたらいいかもしれません。でも、まず原作を読んでみてほしい。辛口の私が、本当に素晴らしいと思った本ですから。
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