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万年筆と恋の余韻

堀井香恵は、文具店でのアルバイトと音楽サークルの活動に勤しむ、ごく普通の大学生だ。何か物足りない思いを抱えたまま日々を過ごしていた彼女は、ある日、自室のクローゼットで、前の住人が置き忘れたと思しきノートを見つける。そのノートが開かれたとき、香恵の平凡な日常は大きく変わり始めるのだった。

裏表紙にはそう書かれていた。書店でふと目に入って、「大きく変わり始めるのだった」という全能の第三者的表現に惹かれた。ごく軽そうだし、主人公は同世代だし、なんか共感できそうな雰囲気を感じたのだ。買ったのは夏の始まりの頃だった。それからしばらくの間、私の本棚で熟成され、秋も深まった頃ようやく読まれることになった。ストーリーの季節も秋がメインだし、かえってよかったと思う。

文庫で400ページ超と、結構な長さの小説なのですが、読むのに時間はかからなかった。爽快感にあふれていて、とても読みやすい。純粋に面白い。そして、なんとも温かく、午後の日差しの中で読むのに最適だった。

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クローズド・ノート(雫井脩介)

この小説のキーとなる要素として、「ノート」はもちろんあげられるのですが、それ以上に「万年筆」がいい雰囲気を作っていると、私は感じました。Amazonレビューを見てると、人は様々で、かなりの酷評をしているものもあります。万年筆の描写が長すぎて飽きるとか、主人公が全然魅力的じゃないとか。確かにそう感じる人もいるかもしれません。読書好きにとっては、ストーリーが甘すぎて最初の10ページで結末が見えてきてしまうかもしれません。実際、私も読み初めてすぐに想像した結末が割と正解だったのですが、決して萎えたということはありません。むしろ、私を虜にしたのは、最初の方に出てくる様々な万年筆、そして万年筆でノートを取る主人公の女の子だったのです。

Amazonレビューは好評と酷評に大きく二分されています。それはきっと、前にも書いたように、いろいろな人がいて、もっている感性も人それぞれだからでしょう。森見登美彦がすらすら読める人と全く読めない人がいるのと同様に。ただ、それがどんなに構成的によくなくても、何らかの深いメッセージを持っていれば、私は読むに値すると思っています。この作品はそういう点で大いに評価されるはずです。

何かをレビューするときにいつも言っていることですが、これは恋愛小説でもなければ、ミステリー小説でもないと、私は思います。ただ、決して安易にはカテゴライズできない何かを持っていることは確かです。万年筆買いたくなったし、音楽弾きたくなったし、ついでに公園にも行きたくなりました。私はこの作品に、というより、この主人公の香恵ちゃんにとても「同調」することができたからです(ちょうど和音がピタリと聞こえたように)。

買い物しようよ!

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コメント

  1. IPPEI より:

    @nayoclar
    Oh, なんか深イイ感じのコメントありがとうございます!
    好みは分かれると思いますが、オススメです。

  2. nayoclar より:

    私が良い本に出会ったとき、「良く出来た芸術品だなぁ」という印象を受けます。
    音楽を聴くときも絵画や映画を鑑賞するときも同じです。
    良いもの、というのはカテゴライズできないと同時に、カテゴリーを越えて共通して響くものがあります。
    レビューを見て私も読みたくなりました。