決して今に始まったことではないのだが、ありとあらゆるデバイスの購入に関する相談をよくされる。それに備えて、というわけではないが、新製品の情報はなるべく詳しく調べておかなければ落ち着かない性格になってしまった。「ついにIvy Brigdeが来たから、今度こそ買い時かな?」とか聞かれたところで、「いつだって、そのときの最新のプロセッサは素晴らしく感じる。今年の恋がいままでで一番本気だと感じてしまうようにね」としか答えられない僕である。

特に多いのはスマートフォン(以下スマフォイフォイ)の相談だ。ガラケーから乗り換えたいという人もあれば、スマフォイフォイを機種変したいという人もいる。初めに余談を言っておくと、ガラケーの現行機種は各キャリア本当に数えるほどしか出てないので、今のガラケーが気に入っている人は、わざわざ時代の流れに無理して乗ってスマフォイフォイにする必要など、全くない。後に述べるが、結局のところガラケーの方がいい。生粋のガジェット系男子がそう言うのだから、あながちウソではない。

スマフォイフォイに関する相談の中で最も多いのは、iPhoneかAndroidか、という極めてとんでもなく根本的なものだ。最近の僕は誰にどのようなシチュエーションで聞かれても、iPhoneと答えているわけだが、今日はその理由を極めて根本的なところから解説しようと思う。ちなみに、僕のメイン端末はAndroid機、KDDI版Xperia acroであることを先に言っておかなければならない。

ぶっちゃけると、iPhoneという固有のハードウェア的な要素を抜きにして考えるなら、どっちだっていい。OSというのは好みの問題だし、それぞれにそれぞれのよさがあるからだ。(それでもデジタルに疎い人には圧倒的にiPhoneをお勧めしてしまう、ということには今日は触れない)

ガジェット好きというのは、製品のスペック表を読むのが好きなやつのことだと思う。僕は小学生の頃から家電量販店が大好きで、よく父親に連れて行ってもらったものだ。何も買わないのだけど、いろんな新製品のカタログを持って帰って、読み込んでいた。信じられない人もいるかもしれないが、僕が小3の頃、パソコンのCPUの単位はまだMHzだった。

君のブログはいつも前置きがほとんどだよね、という声が聞こえてきそうなので、そろそろ本題に入ります。

スマフォイフォイのスペック表なら、何を重視すべきだろうか。CPUのクロック、RAMやROMの容量、カメラの画素数、電池の容量、おサイフケータイ・ワンセグなどの固有の機能、このあたりが多くの人が選択を左右される項目だと思う。

おっと、一番大切なものが2つ抜けていることにお気づきだろうか。ほかでもない、画面の大きさ、本体の大きさと厚さである。ショップの店頭で見比べたくらいだと、相対的にはそんなに変わらないから気づかないのだが、買って持ち帰って1週間使って気づくのだ。「あれ?なんか、私の手にはちょっと大きすぎる…」という感想を抱いた人は少なくないはずだ。

ここ1年くらい、スマフォイフォイが、何かにとりつかれたかのように巨大化している。そして、うちの端末こそが大画面で使いやすい!と各社はりきって宣伝している。大いに結構だが、そのTVCFを見て気づく。それらの多くが、左手でホールドして、右手の人差し指で操作しているということに。それはひとつに、片手で操作しているシーンだと手に隠れてしまって画面を映しにくいということもあるだろうが、それ以上に、人間の親指が意外とあまりにも短いという大きな理由があるのではないだろうか。

街を歩いているとき、多くの場合、たいてい片手にはバッグやペットボトルを持っている。雨が降っている日なら、傘かもしれない。どちらにせよ、使えるのはもう片方の手だけだ。そのようなシチュエーションで(Androidという設定で)、メールが来たとしよう。ポケットから取り出したら、まず通知バーを上から下へスライドさせて、メールの項目をタップするはずだ。おっと、デフォルトのロック画面だと、ロック解除しないと通知バーを下ろせないから、まず画面下部のロック解除を左から右へスライドをして、その次に画面の一番上から通知バーを下ろす。この一連の動作を、4.5インチ以上の端末でホールドし直さずにできる人は、手が大きいことを自慢できると思う。

本来、携帯「電話」端末というのは、どんな厳しいシチュエーションの中でも、なるべくシンプルで確実な操作でもって使えるべきだと、僕は思っている。左手にビジネスバッグ、右腕にはトートバッグを通して、その先で端末を操作する、しかもそこは駅の乗り換え階段、なんて状況は珍しくない。そこで端末を落とした日には、涙も溢れることだろう。

いろいろな端末を見てきて、僕の小さめの手から言えることは、片手でホールドし直さずに確実に操作できる大きさはiPhoneが限界だということだ。

iPhone 4S、Xperia acro、AQUOS Phone 106SH、ELUGA power P-07Dの4機種について、サイズを調べて相対的にわかりやすい図にしてみた。

※Javascriptによる表示が見にくい場合は、右クリックから新しいタブで画像を開いてみてください。

iPhoneの画面は、幅はそれほど小さく感じられないかもしれないが、高さが圧倒的に小さいことがわかる。これは画面のアスペクト比が、多くのAndroid端末が16:9なのに対して、iPhoneは3:2だからだ。スペック表に載っている画面サイズというのは対角線の長さをインチで表記したものだ。アスペクト比がわかれば、縦横それぞれの長さを求めることができる。ちなみに上の図は、対角線以外の単位はミリメートルである。

僕も使っているXperia acroは去年の夏モデル、そして106SHとP-07Dは今年のモデルだ。まあ、比較としてわかりやすい機種を選んだ、ということもあるが、メジャーな比較サイトとかで一覧表を見ると、明らかに平均的にも画面サイズが大きくなっていることがよくわかる。Xperia acroでさえ片手で通知バーを下ろすのに苦労することがあるのだから、右の2つの機種はもしかしたら片手では無理かもしれない(まだ店頭で触っていない)。

iPhoneが何世代も前のiPhoneから4Sに至るまで、たとえ解像度を329ppiにしてでも、画面のサイズを変えてこなかった理由は、まさにここにあるような気がする。手の小さい僕でも、そして女性でも、子供でも、なんとか片手で使える、最適解だという考えがあるのかもしれない(勝手な想像)。メーカー側としたら大きくする方が簡単だしコストも安い、なんてことは誰にも容易に想像できる。これほど小さい中に、3G、4G、WiFi、Bluetooth、FeliCa、ワンセグなどの多くのアンテナを格納するだけでも、そりゃあメーカーとしたらサイズが大きい方が作りやすい。画面だって同じ画素数ならサイズが大きいほうが楽だろう。そういう理由かはわからないけど、最近の端末はこれでもかと調子乗りすぎで大きくしているような気がしてならない。

この図は、画面の縦横それぞれの長さをグラフにしたものだ。加えて、画面の面積率(ボディサイズに占める画面の面積)を示してある。縦の長さの順にソートしてある。

この記事を書くにあたって、感覚だけじゃなくてきちんとしたデータにしなければいけないと思い、Excelで9機種について計算してまとめた。項目は、対角線の長さ(いわゆる画面サイズ)、縦の画素数、横の画素数、アスペクト比、縦の長さ、横の長さ、解像度、本体の縦の長さ、本体の横の長さ、本体の厚さ、縦の画面が占める割合、横の画面が占める割合、画面の面積率。これだけ多くの項目だが、ほとんどが画面サイズとアスペクト比から計算できる。

画面の面積率が画面の大きさに比例しているということは、データにしてみて初めて見えたことだ。これはホールド感に大きく影響する数値なのかもしれない。実際、Xperia acroだと、画面の最下部は片手での操作が楽ではないからだ。

結局のところ、機動性を求めるならガラケーの方が圧倒的にいい。物理キーというのは、(これまたメーカーにとってはタッチパネルよりもハイコストだろう)、画面を見なくてもどのキーを何回押したのかをクリック感から把握することができる、という素晴らしい利点を持っている。「着信履歴」という固有の物理キーがあるから、ダッシュしながらでも電話を折り返すことが容易だ。

でも、僕たちはFacebookというぬるま湯にあまりにも浸かりすぎてしまったし、Twitterの流れは利根川から天竜川くらいの速さになってしまった。だからきっと、スマフォイフォイからガラケーに戻ることは無理だろう。そうなると最もガラケーに(ソフト的にもハード的にも)近いスマフォイフォイと言われているiPhoneが選択肢として有力なのではないだろうか。

一応断っておくが、僕は別にAppleなんて好きじゃないし、PCはMacじゃない。今持ってるiPhoneだって自分で買ったわけじゃなくて、たまたま友人のカワムラ君がSB版の白ロムを貸してくれるというので、ちょっと使ってみてるだけだ。だけど、たった数ヶ月iPhoneを触ってみて初めて、iPhoneしか認めない(認めようとしない)人の気持ちがわかったように思う。それはAppleが好きという理由なんかじゃなくて、このホールド感を超える端末が他にないからだ。

アホみたいに長くなってしまったので、反省の意味を込めて、最後は余談でしめたいと思う。

昔、ある文集で友人はこんなことを書いていた。「ハンバーガーはビックマックになり、テレビは大きくなり、平均身長も伸びている。大きいことはかっこいいことだと思われがちだけど、小さいからこそ見える世界もある」 僕は初めてこれを読んだとき全身を雷が走るほどの衝撃を受けて、そして惚れずにはいられなかった。

スカイツリーを高くするのも、回線が速くなるのも結構だけど、例えばボールペンはずっと昔から同じ大きさだった。それは、僕たちの手によって握られるものだからだ。携帯端末ってのはボールペンと同じだと、僕は思う。