シンプルさと耐久性のはなし

東京に4年間暮らしてみて改めて実感させられたのは、信州の朝晩はありえないくらい寒いということだ。例えばある日の最低気温でいうと、東京は9℃のときに伊那が-1℃といった感じだ。大気の状態によっては、驚くべきことに、札幌よりも寒い日があるのだ。これも標高700mが為せる技といえるかもしれない。

さて、そんな信州の冬に欠かせないものといえば、漬け物の樽、そして暖房器具にほかならない。それはもちろん、エアコンなんていう軟派なものではなく、石油を大量に使って熱を放射するタイプの石油ストーブである。安いエアコンは外気温が低すぎると動かないのだ。

僕の部屋でも石油ストーブを使っているのだが、これがまた年代物なのだ。1990年発売のシャープ製である。感心させられるくらいよく働き続けてくれている。しかし、最近になって炎が安定しないことが気になり、ずくを出して芯を交換することにした。その作業が結構おもしろかったので(ガジェット男子は分解という行為に無条件に萌えるのである)、少し紹介しようと思う。

灯油タンクと正面の網を取り外したら、まず、本体側面のネジを外して、カバーを開ける。

写真だとわかりにくいかもしれないが、大量のホコリが積もっていた。このストーブがいつ購入されたものかは僕にはわからないが、おそらく芯を交換するのは初めてである。

楽天で購入した芯は、送料あわせても3千円程度だった。こういうものってホームセンターにもなかなか置いてないし、取り寄せると時間かかるから、つくづくネットの恩恵に感謝してしまう。(Amazonが扱っていたら送料かからなくていいのに…)

ホコリをきれいに拭き取り、分解できるところは洗い、ようやく芯を交換する。

これが新しい芯である。ちなみに交換作業は、お世辞にも分かりやすいとはいえない説明書のおかげで、最初は苦労するかもしれない。力の要る手順もあった。でも、慣れればそれほど難しくはないと思う。それから、当たり前だけど、手が灯油まみれになるので、それなりの覚悟が必要である。

こちらが取り外した芯。20年ほど使っていたということだろうか…。汚れはもちろんだけど、消耗して長さが短くなっていた。作業を終えて点火してみると、それは素晴らしく安定した炎だった。冬はやっぱり石油ストーブに限る。

分解して初めてわかることがあるというのが、分解の醍醐味だと思う。

このストーブはとてもシンプルな仕組みで、基本的にはレバーを下げれば芯が上がって火力が強くなる、というだけのものだ。電子回路が一応あるが、点火ヒーターと消火時の消臭ファンを制御しているだけなので極めて簡単なものだし、電池が切れてもストーブ自体は普通に使える。点火ヒーターなんて昔は交換してたけど、交換しきれないし、マッチで点火すればいいので、最近は交換してない。消臭ファンもここまで年数が経っていると機能しているのか謎だ。

他にも、揺れると消火する仕組みや、灯油タンクを外したときに消火する仕組みもあっておもしろい。

おもしろいというのは、僕みたいな素人が見ても、これが何のための装置なのかということが理解できるということだ。それは素晴らしいことだと思う。なぜなら、仕組みを少しでも理解できれば、何か調子悪くなったときに自力で直せるかもしれないからだ。家電って、薄型テレビとかなら仕方ないかもしれないけど、簡単なものなら自分で分解してみると原因がわかって意外にも直せたりするものだ。iPS細胞の山中教授も、ノーベル賞受賞の電話を受けとったとき、壊れた洗濯機を修理していたという。

白物家電というのは本来そうあるべきだと、僕は思う。いいものを長く使う。故障の程度によっては修理して使う。消費電力が少しばかり小さくなったというだけで「エコ」を最前面に押し出して売っている新製品に買い替えるよりも、そのほうがずっとエコなのではないだろうか。新製品に買い替えるということは、同じだけのゴミを出すということだ。

最近の日本メーカーの白物家電はどうだろうか。エアコンに無線LANは当たり前、体重計にも無線LAN、ロボット掃除機には加えてカメラまで搭載され始めた。そんなにオンライン化したいのかと、僕は疑問でいっぱいだ。

本来の機能自体での差別化に限界を感じ始めたから付加機能に走っているのか、それとも某日経の見出しを借りるなら「新たな挑戦」とでも本気で思っているのだろうか、はたまた無線LANモジュールがあまりにも安くなってきたからとりあえず載せとこうぜという安易な発想だろうか。いずれの理由にしても、何かを間違えているような気がしてならない。日本の家電業界が心配だ。無線LANを搭載する前に、掃除機の吸引力を少しでも高めて欲しいし、静音化して欲しいし、どちらも限界というなら価格を安くして欲しい。そう思うのは僕だけではないはずだ。

先月まで1年間ほど使っていたXperia acroは、1年間の間に3回ほど修理に出した。GPSが使えなくなったり、頻繁に再起動を繰り返したり、といった症状だった。スマートフォン端末は、おそらく素人が修理できないガジェット第1位だと思う。それでいて、故障の多いガジェット第1位だろう。

石油ストーブの10倍は値段のするXperia acroは半年すら使えなかったのに、このストーブは20年使い続けることができた。なんと皮肉なことか。もちろん、石油ストーブでYouTubeは見れないし、スマートフォンで部屋は暖まらないのだから、比べること自体に間違ってるのかもしれないが。

いつも僕が言っていることだが、シンプルなものは壊れにくい。複雑なものほど脆弱だ。これはガジェットに限らず、僕たちの心にもいえることだと思う。今日芯を替えたストーブは、あと何回の冬を越えてくれるだろうか。

買い物しようよ!

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