救われる小説の心地よさ
僕はこう見えても、ハッピーエンドな小説や映画が結構好きだ。誰かさんは、ハッピーエンドなんて糞食らえだ、と言うかもしれないが、一周回って好きになるときがくるはずだ。まあ、ハッピーエンドでなくてもいいんだけど、なんだろう、適度な軽さで、やさしくて、登場人物がさりげなく救われちゃうくらいの話って、心地よい。たぶん、石田衣良を好きなのも、そういった理由なんだと思う。
原宏一の「ヤッさん」という小説もまさにそんな、さりげなく救われる小説だった。本当にさらりと軽く書かれているのだけど、描かれているスケールはさりげなく人生レベル。悪者は出てこないし、登場人物それぞれの物語があって、それらはほどよく主張して、しすぎない。短篇であることも手伝って、その軽さを保ったまま、最後まで気持ちよく読むことができる。
内容についてはAmazonの詳細を見てもらえばわかりやすいと思う。簡単にいうと、食通ホームレスのヤッさんと、ただのホームレスのタカオが出会って、いろんな出来事が起こっていくという小説だ。ありそうで、なさそうで、やっぱりありそうな話だ。
6つの短篇のうち2つめの「ラブミー蕎麦」は特に考えさせられる。蕎麦ばかり食べている中学生の少女に、ヤッさんはこんなことを言う。毎日ラーメンばかり食べているやつらが行列作っているラーメン屋なんて、実は美味しくない。濃厚ギトギト、魚粉でデフォルメされただけの味だからだ。そんなものばかり食べてると、舌がそういう味しかわからなくなってしまう。味覚が狂ってしまったら、人間おしまいだ。だから、いろんなものをバランスよく食べなければならない。
あまりにもあたりまえのことだけど、多くの現代人にとって他人事ではないかもしれない。24時間営業の牛丼チェーンは、毎日変わらない味を驚くべき安さで食べさせてくれる。それらは、油分と塩分と炭水化物で構成される。105円で気休めサラダも付いてくる。悪いとは言わない。だけど、僕は積極的に食べたいとは思わない。牛丼に限った話ではない。すた丼とかいう謎の丼ぶりチェーンも、ラーメン二郎も、大学生活4年間で一度も行っていない。
自分の味覚を守るためにも、上等なものを少しだけ食べるというスタイルは、これからも続けていきたい。
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