正直なところ、今までにこれほどまで僕の心をつかんだフレーズはなかった。たとえ、その作品がAmazonのレビューでくそったれに酷評されていたとしても、それでも僕はこの小説が好きだ。これだよ、と思った。

今日はグラウンドが楽譜に見えない。片隅にあるト音記号が、音楽を始めようとしてくれないから。

これを読んだだけで、ああ、あれね、とわかる人もいるだろう。そう、2012年で最もヒットした映画「桐島、部活やめるってよ」の原作、朝井リョウの同名の小説だ。

これを陳腐な表現だと一蹴する人も少なくないと思う。だが、こんなに素直で、そして多くを語らずにも多くを伝えてくれる表現に、僕は出会ったことがなかった。だから、そのページでは手が止まり、このフレーズを何度も目で追った。何度読んでも、飽きないのだった。

語り手は、屋上でサックスを吹いている吹奏楽部の部長だ。小説も映画も、僕にとってはこの彼女が最も印象的だった。なんというか、つかみどころのない感じとでもいうべきか、切なさと可愛さが入り交じった彼女の雰囲気が、ひとつひとつの文からいちいち伝わってくるのだった。

正直なところ、好みが大きく分かれる小説だと思う。スクールカーストというテーマも、若い世代でさえ、理解できる人とそうでない人がいるはずだ。だから、この小説を読んで、すっと入ってくる人がいる一方で、疑問符が残ってしまい先に進めない人もいると思う。

僕は写真部(事情はこの小説に出てくる映画部とは大きく違うけど)だったから、どちらかというと全然イケイケじゃなかった類いで、そういう視点で読むことができるからこそ、この小説をより楽しめたのかもしれない。ごく普通にあたりまえのようなリア充だった人には、少し難しいような気もする。

映画については、本当によかったので、とりあえずTSUTAYAで借りて見てみてほしい。エンディング曲の高橋優「陽はまた昇る」もなんともよかった。映画に合いすぎるくらい合っていたと思う。

というわけで、小説も映画もどちらもオススメだ。というか、両方見たほうが物語をより深く理解することができると思う。ちなみに、僕は先に映画を見た。