どこまでも行ける気がしていた、あの頃。
念願の自転車を、ついに購入した。ずっと欲しかったのだが、さまざまな物欲のプライオリティにおいて決して上位に入ることはないままに、気がつけば数年が経っていた。今思えば、東京で学生をやっていたころに買ってしまえばよかった。
買ったのは、ルイガノのLGS-RSR 4という、2013年モデルだ。
特にこだわって選んだというわけではく、たまたま立ち寄った自転車店にちょうどサイズの合う在庫があったからだ。白とピンクのコントラストは強烈だけど、走ってみるとちょうどいい。目立ちやすいという点で安全であるし、盗難されにくいということもいえる。ハンドルはフラットだが、一応ロードバイクにカテゴライズされるらしい。タイヤは25Cで、そこそこスピードも出る。
自転車そのものも高かったが、アクセサリをいろいろと揃えるのにも費用がかかった。ヘルメット、サイクルコンピューター、ワイヤーロックなどは必須だからだ。
サイクルコンピューターは、おなじみCAT EYEのCC-MC200Wを選んだ。デジタルワイヤレスやGPSモデルが主流のなか、このモデルはアナログワイヤレスだが、趣味レベルにはまあ十分だろう。スピードと走行距離がわかれば十分だし、標高や座標を含む詳細なトラッキングはiPhoneのアプリで対応可能だ。
僕は乗り物が大好きだ。車輪のついているものも、そうでないものも好きだ。クルマは特にすきだが、電車やバスも好きだ。なぜ好きなのかが自転車を買ったことで少しだけわかった気がする。
すべての乗り物は男のロマンだ。なぜなら人類は移動することで生き延びてきたからだ。大陸をわたり、海を越え、橋を架け、トンネルを掘ることで、私たちは地球がまるいということを知ってきた。
ガキのころ、初めて自転車を買ってもらった日のことを覚えているだろうか。何度も転んでやっと乗れるようになったこと、日が暮れるまで野山を探索したこと、仲間と遠くの町までツーリング(僕たちはバイクでもないのにそう呼んでいた)にでかけたこと。
自転車というのはやっぱり男の子にとっての乗り物の原点なんだと思う。自転車に乗り始めてから運転免許を取るまでのわずかな期間こそが、移動することの大変さと素晴らしさを、僕たちに教えてくれるからだ。そういった期間を経てこそ、クルマを大切に使ったり、飛行機が空をあまりにも簡単に飛んでくれることに感謝したりするようになるのだと思う。
移動するということは、本来とてつもなく大変な行為だ。人類は多くの移動するためのデバイスを開発することで、町と町との距離を小さいものにしてきた。そして、それらは多くのエネルギー(ガソリン価格の高騰はいつだって僕たちを苦しめる)を必要としてきた。そういう点で、自転車は特別な乗り物だ。燃料をまったく必要としないわりには、そこそこ長い距離を移動することができる。フレームの軽量化とギアの多段化のおかげで、坂でもそれほどつらくないし、平地なら35km/hを簡単に維持できる。
クルマに乗るようになって、僕は自転車の楽しさを忘れかけていた。ガキのころ、自転車に乗れば、どこまでも行けると信じていたことを。心地よい汗をかいて、休憩するために日陰を探し、自販機でコークを買って飲むだけの休日がどれだけ充実したものであるかを、いまやっと思い出した。
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