そろそろ車を買い替えようかな、なんて思うのは年の瀬がやってこようとしているからだろうか。

2013年の冬の終わりに、中古で買ったスバル・フォレスター。ターボこそついていないが、5速のMTは山からハイウェイまで思いどおりに走ってくれる。もう3年になるが、ありがたいことに、とても調子よく走り続けてくれている。50万円ほどで購入したとき、8万kmくらいだった距離計も、今では13万5千kmになった。ナビやスピーカーを取り付けたり、タイヤを買い替えたり、ときには黄ばんだヘッドライトをサンドペーパーで一日中磨いたこともあった。車検はすでに2回やったし、10万kmのときにタイミングベルトを交換したのは大きな出費だった。そんなこんなで、愛着がわいてしまうのも仕方ない。

フォレスター SG5

というわけで、乗っている僕だからこそ、このクルマの素晴らしさを知っているのかもしれないが、とにかく使いやすいのだ。まだまだ乗りたいというのが本音だ。

しかし、さすがにそろそろ買い替えるべきかと、ずっと悩んでいた。まわりの人々が、買い替えるべきだと、何度も言うのだった。その要因は大きく2つだ。ひとつは、購入当初からありえないくらい重たかったクラッチペダルが、最近さらに重くなり、切れが悪くなったり(気のせいかも)、寒い朝は走り出しがギクシャクするということ。もうひとつは、高速走行時の風切り音が耐えられないくらいうるさいことだ。ドアガラスにサッシがないためなのか、単純に古いからなのか、原因は謎だけど、これも買ったときから変わらずひどい。ドアミラーの付け根に硬めのスポンジみたいなやつを切って貼り付けたら少しは改善されたが、高速道路では助手席の人と会話するのも大声だ。

まあ、すぐには買い替えないにしても、いざ壊れたりしたときのために買うべき車くらい決めておかないと困るだろうと思い、ディーラーへ行って候補を探すことにした。しかし、結構本気で探しに行ったにもかかわらず、残念なことに、どうしても買いたいと思える車は見つからなかった。

買ってもいいなと思えたのは、アウディ・A4クワトロ、フォルクスワーゲン・パサート、スバル・フォレスターくらいだ。中でも、新型パサートは素晴らしかった。フロントグリルのデザイン、シンプルで飽きのこない感じの内装、1.4Lターボのエンジン、車内は本当に静かでラジオのボリュームを上げる必要などない。ただ、FFだから、信州の冬には少し心細いことは否めない。まあ、プリウスだってたくさん走ってるんだから、実際のところ、四駆にこだわる必要はないのかもしれないけど。

店員さんといろいろ話をしたのだが、僕は買わずに帰宅した。400万円近い値段は、僕にとって少し高すぎたのだった。値段が高い、というか、車としては妥当なんだろうけど、そこまで出して新車を手に入れる必要性を感じることができなかった。店員さんはお得だというローンを提案したが、車ごときに金利を払うつもりは全くない。

将来は中古でもいいからアウディ・A4クワトロに乗ることを決意して、結果として僕に本気を出させなかったのは、今乗っている車が十分動くというまぎれもない事実だ。まわりの人々が買い替えるべきだと僕を説得しようとも、13年目に突入し自動車税が25%アップしようとも、動くのだから仕方がない。

そもそも、自動車メーカー、もっと言えばディーラーと呼ばれるショップの人たちは、僕たちに新車を買わせようといつだって必死だ。政府だって同じだ。環境にやさしいとされる新車はかなり減税される一方で、古い車はなぜか増税だ。みんなが新車を買いまくれば経済的にはプラスだろうけど、環境的には本当にいいのだろうか。新しい車を買うよりも、多少燃費が悪かったとしても壊れるまで乗り続けるほうが本当のエコなのではないだろうか。

だから僕はやっぱり、新車ってそこまで魅力を感じない。中古車市場に出回っている車たちは、まだ動くにもかかわらず何らかの事情によって手放されたにすぎない。新型と比べれば性能やデザインに多少の差はあるだろうが、僕にとってそれはあまり重要ではない。走って、曲がって、止まることができれば、それで十分だと思う。車に関わる仕事をしているからこそ、そんなことをいつも思う。

ところで、今回の車探しの最後に、今の車を購入したショップ、いわゆる街の車屋さんに足を運んだ。ディーラーを見てきた話をして、今の車の状態を説明し、やっぱり値段的に手頃な中古はないものかと相談した。中古市場でA4クワトロを検索しつつ、彼は僕に言った。

「今のフォレスター、とてもいい車だと思います。乗っていて古さを感じさせない。内装もとてもきれいだ。クラッチはただちに問題はないと思う。車検もまだ1年半あるし、ダメになったら、そのときに修理か買い換えかを決めたらいい。それにね、乗りたい車なんて無理して探すものじゃない。本当に乗りたい車が見つかったら、それを買えばいいんだよ。好きかどうか分からない女と付き合ってもしょうがないでしょう?」

僕はハッとした。僕はいったい何を探していたのか。まるで恋に恋するティーンのような愚行であった。まあ、それはさすがに言いすぎかもしれないが、彼の一言が僕の車探しをあっさりと終わらせたのだった。

それにしても、中古車を売るのが仕事のはずの彼が、「今は買わない」という選択肢を僕に与えたことは、尊敬されるべきことだ。本当に納得いく買い物をしてもらわなければいけない、そう考えてのことに違いない。次に買い替えるときも、また彼から買うだろう。