地方のスターバックスについて思うこと

伊那地域の全住民にとって今世紀でもっとも重大なお祭りとなった「スターバックスコーヒー 伊那ナイスロード店」のオープンは2017年春、まだまだ記憶に新しい。同市には他の主要な喫茶店として、コメダ珈琲店、支留比亜珈琲店、珈琲館、ドトールコーヒーなど、十分な数の店舗があるわけだが、そうはいってもミーハーな田舎者たちにとって天下のスターバックスが出店することは先祖代々からの願いであり、今回それがついに実現されたのだから、みんな騒がないわけがない。

オープンしたばかりのころ、僕は、平日夕方のあまり混んでいない時間を狙って一人で立ち寄ってみたのだが、それでもそれなりに賑わっていたので、数ヶ月して落ち着いたらまたゆっくり行ってみようと思っていた。そんなとき、高校時代の友人リカルドから「そろそろナイスロード店の視察に行きませんか」との誘いがあり、平日の昼下がりに張り切って行ってみたのだった。

リカルドと僕は年に数回会うくらいだが、会えば必ずコーヒー店に行くという関係であり、つまりコーヒーが好きであり、喫茶店をこよなく愛している。それだけに、喫茶店やコーヒーについて少しばかりうるさいのだ。ここまで読んで想像もついているだろうが、ここから先は少しばかりポイズンになることは避けられない。

僕は昔からスターバックスが好きだった。学生時代に相模原に住んでいたときには、橋本店で多くの時間を過ごしてきた。小さい店舗だったが店内はいつも落ち着いていて、カウンター席の窓からはペデストリアンデッキを歩く人々を眺めることができた。雨の日にそこに座って読書をするのがたまらなく至福だった。要するに、ただの意識高い田舎出身の学生なのであった。

スターバックスも全国に数多くの店舗があるわけだが、それぞれの店舗が持つ雰囲気は多様である。それはきっと、地域や立地によって変わってくるものであり、他の喫茶店チェーンにおいても同じことがいえるだろう。とはいっても、落ち着いた雰囲気と上質なコーヒーを提供することにより、他より高い価格帯を有しているスターバックスに限っては、全国どの店舗に行っても同様の雰囲気が提供されるべきであり、そうあって欲しいというのがファンの願いだと思う。

さて、初夏の平日午後2時に訪れた、伊那ナイスロード店の話をしよう。満席とまではいかないが、それなりに賑わっていた。賑わっていたというよりは、かなり騒がしかった。正直に言って、僕たちが今まで過ごしてきたスターバックスとはだいぶ違っていた。

客層は大きく2つに分かれていた。ひとつは、60代女性のグループであり、多くは4人組だったが、5人組もいた。スターバックスがオープンする前にはおそらくコメダ珈琲店に通っていたであろう、いわゆるおばちゃんたちである。彼女たちはとにかく声が大きく、4人いれば4人が同時に喋っている感じである(悪いとは言わない)。意外だったのは、おばちゃんたちはコーヒーではなく、フラペチーノとか限定モノのとにかく甘そうなドリンクを飲んでいたことだ。

そして、もうひとつは、アラサーママとその子供2組といった感じのグループである。子供というのは、おそらく保育園に通う前の3歳くらいだと思われたが、ママ友たちがお喋りを続けている隣で、子供たちは驚くべきことに粘土遊びを繰り広げていた。テーブルいっぱいに色とりどりの粘土や関連するアイテムを広げて、せっせと粘土をこねているではないか。ちなみに、粘土といってもオーブンで焼いて茶碗になるタイプではなく、何度でもこね直してリサイクルできる子供用のやつである。僕が小さかった頃の粘土といえば灰色や緑色で臭い印象しかなかったが、現代のやつはカラフルなのだ。時代の変化は止められない。だからといって、そうは言っても飲食店だ。テーブルの上で粘土遊びをすることはいかがなものだろうか。

僕たちはその光景を見ながら討論したわけだが、結局のところ価値観というものは地球が500億周回っても全ての他人と一致することは不可能であり、「常識なんて18歳までに身につけた偏見のコレクションにすぎない」と言ったアインシュタインのことが思い出されるばかりだった。飲食店で粘土遊びをするなんて非常識だと言い切ることは、思ったほど簡単なことではないのだった。

例えば、都心のスターバックスであれば周りの白い目に耐えられないかもしれないが、伊那ナイスロード店では誰もそれを気にすることなく、店員さえも子供が床に落としてしまったアイテムをやさしく拾ってあげていたくらいだ。地域や住民が変われば、常識も変わってくるのが当然のことだ。また、スターバックスではなくマクドナルドだったら僕たちはそこまで違和感を抱かなかったのかもしれない。逆に、そのママ友と子供たちも、スターバックスではなく、高級レストランだったら粘土をこねないどころか、持っていかないかもしれない。そう考えると、マクドナルド、スターバックス、高級レストランのどこに「粘土可」の線引きを設定するのかという、あまりにも個人的な価値観の違いという問題であり、他人の行動に対してどうこう言える立場にはないのかもしれない。だけど、ここは僕のブログだから声をグランデにして言わせてもらうけど、飲食店で粘土はやめておこうよ!どう考えても衛生的じゃないと思うよ。

それから、もう一つだけ言いたいことは、大声で喋っているおばちゃん4人組がいなくて、粘土をこねている子供がいないから、スターバックスを好んで利用しているという客層が少なからず存在していて、そういった人たちにとっては、地方の郊外のスターバックスは行きづらい空間になってしまったかもしれないということだ。スターバックスはいつまでも上質な空間を提供する喫茶店であってほしいというのが、あくまでも僕の極めて個人的な見解である。

そろそろ店を出て静かな公園でも行こうかと言い始めたとき、初の男性客、40歳くらいの2人組が入ってきた。彼らがこの店内のいったいどこに座るのかが僕たちの最大の関心事だったが、それは杞憂であった。彼らはホットコーヒーを2つ受け取ると、すぐに状況を判断してテラス席へと行ったのだった。仲良くなれそうな気がした。

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買い物しようよ!

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