伊那谷の辰野町から箕輪街、そして伊那市にかけて円筒分水がたくさん存在していて「西天竜幹線水路円筒分水群」と呼ばれているという話は全国的にも有名らしい。円筒分水ファンが見にくることもあるとのこと。せっかく近くに住んでいることだし、見に行ってみることにした。

ちなみに、この記事に出てくる写真のキャプションはGoogleマップのリンクになっています。興味がある方はぜひ行ってみてください。

西天竜幹線水路円筒分水群 松島9号

車で流していると、さっそく見つけた。場所は中央道伊北ICのやや南、中部電力パワーグリッド松島変電所の近くだ。

西天竜幹線水路円筒分水群 松島9号

反対側から見た写真だ。道路を挟んで反対側にある水路からサイフォンで水が送られ、円筒部分の真ん中から湧き上がってきているのだ。水草だか藻だか分からないが、ずいぶん栄養がよさそうである。

円筒分水にも様々なタイプがあるが、これは3方向に分水しているようだ。穴を土のうで塞いで水量を微調整していることもしばしば。

平等に水を分配するために画期的な円筒分水

昔はきっと現代ほどに灌漑用水も整備されておらず、水資源は貴重だったはずだ。すべての水田に平等に水を引くことは、先人にとって大きな課題だったことだろう。単純に川を3つや4つに分割すると、中央とサイドとで水流が異なりフェアに分配できない。そこで、円筒の中央からサイフォンで水を噴き出させて分配するという仕組みが開発された。これならより正確に分配できることはもちろん、誰から見てもフェアに分配されていることが分かり、争いを減らすことに役立ったということらしい。

西天竜幹線水路円筒分水群 沢5号

円形でない分水もあるようだ。これは小型だが4方向に分水している。こちらもまた、栄養豊富な色をしている。

西天竜幹線水路って何? どこからどこまで続いてるの?

円筒分水は西天竜幹線水路に沿って数多く分布しているわけだが、そもそも西天竜幹線水路とはいったい何なのか。用水路にしては大きめな川が、北から南に向かって流れている。水量も豊富だ。

今回、西天竜幹線水路の始まりから終わりまでたどってみることにした。理想的にはカメラ片手に自転車で旅をしてみたかったのだが、連日の酷暑のため車で路駐をしながら写真を撮ってまわった。

結論からいうと、西天竜幹線水路は天竜川の水の一部を引いた人工の用水路である。天竜川ということはつまり諏訪湖の水だ。栄養も豊富なわけである。そういえば円筒分水を近くで見たときも、どこか諏訪湖っぽい匂いがした気がする。

西天竜頭首工(天竜川)

西天竜頭首工を下流側から見た様子だ。水が出ているところの右側、コンクリートで囲われた部分が西天竜幹線水路の取り込み口だ。

西天竜頭首工(天竜川)

取り込み口に近づいてみた。遠慮なくいうと汚い。そして、諏訪湖の匂いがする。

西天竜頭首工(天竜川)の水利使用標識

水利使用標識が2枚設置されている。使用目的のところに注目してほしいのだが、左側は「かんがい」で、右側は「発電事業」と書かれている。これは一体どういうことなんだろう。この記事の最後で謎が解けるようになっているので、お楽しみに。

さて、JR川岸駅近くの西天竜頭首工から取り込まれた天竜川の水は、そこからすぐに用水路になっているわけではなく、辰野高校の南まではしばらく暗渠(あんきょ)になっているのである。直線距離にしておよそ7km、辰野の山の中を暗渠というよりはパイプラインが通っているのである。実に「かんがい」深い。

いや、川岸から辰野高校って標高的には下っているのだろうか? もしかしてポンプアップしている? 検索しても詳しい情報やトンネルの位置が出てこない。詳しい方いらっしゃったらコメントいただけると嬉しいです。

長い暗渠の出口(辰野高校南)

長い暗渠を抜けてやっと水路が始まった。それなりに深さがあるのだが、見てのとおり水位はマックスといった感じだ。当たり前だが、水路を下っていくにつれて水位がどんどん低くなっていく。

西天竜幹線水路の始まり(辰野高校南)

下流方向(南)を向いた写真だ。ここから先、水路の終点までずっとフェンスが設置されている。かなりの水量があり、子どもが誤って落ちたらかなり危険だろうからね。

開渠と暗渠を繰り返し、伊那市の小沢川まで

辰野高校の南から突如として始まる水路は、ここから伊那谷をゆっくりと南下していく。Google Earthで調べてみると、辰野高校の標高が751m、西天竜発電所がある水路の終わり(発電所の上)の標高が742mだ。高低差にして約10mを総延長26kmかけて下っていくことになり、勾配は約0.038%である。びっくりするくらい緩やかである。

ちなみに、水路はほとんど中央道と平行して進んでいく。高速道路がいかに起伏少なくなるように設計されているかがよく分かる。

伊那谷を下っていくと、当然だが、途中にはいくつもの沢や川がある。水路はそれを越えなければならないわけだが、そこではサイフォンが用いられている。

深沢川・北ノ沢川のサイフォン(上流側)

ここは伊北インター近く、深沢川の下をくぐるサイフォンである。水が吸い込まれている様子がわかる。ペットボトルなどの軽いものは進めずにとどまっている。

旧深沢川水路橋(2017年撮影)

深沢川を越えてサイフォンの出口に向かうために、旧深沢川水路橋という名前の橋を渡る。1938年にこのサイフォンができるまでは、ここから300mほど西(深沢川の上流側)に大きく迂回して水路橋で水を渡していたのである。サイフォンができてからは、重量制限があるが車用の橋として通行できるようになっている。

旧深沢川水路橋(2017年撮影)

沢にかかる石造りの橋が圧巻で、ちょっとした観光地になっている。

深沢川・北ノ沢川のサイフォン(下流側)

高低差20mほどある深沢川の下を潜ってきたサイフォンの出口では、勢いよく水が吹き上がってきている。

さて、ここまで中央道の西側をきた水路は、もう少し行ったところで中央道の東側に移ることになる。ここはサイフォンではなく水路橋で高速道路を上を渡っていく。

中央道を渡る西天竜水路橋

今まで数え切れないほど中央道を利用してきたが、まさかこれが水路橋だとは思いもしなかった。ちなみに車や人は通行できないように、フェンスが設置されている。

中央道を渡る西天竜水路橋

下流側から見た写真である。車が通れない構造のわりにはご丁寧に暗渠になっている。もしかしたら昔は車が通れたのかもしれない。そういえば、辰野高校のところと比べると水位がだいぶ下がっている。

深沢川を越えたあとも、いくつかの暗渠やサイフォンを経て、小沢川にある西天竜発電所で水路は終点を迎える。

西天竜幹線水路の終わり(西天竜発電所)

ここが水路の終わりだが、この写真のところでフェンスが設置されていて、ここから先は入れなかった。奥に見えるのが発電所の取水口だろう。水位はかなり低くなっている。田んぼの時期がおわると、川岸で取り込んだ水がそのまま減らずにここまで来るのだろう。

ちなみに、長野県企業局の西天竜発電所の公式サイトによると、最近改修工事が行われ、発電容量は3,200kWにアップ、灌漑シーズンでも発電できるようになったらしい。

開田記念碑

開田記念碑が設置されている。ちなみに、箕輪あたりにも高さ8mほどのバカでかい開田記念碑があるらしい。取材し忘れた。

西天竜発電所の公園(建設中)

道がかなり分かりにくかったが小沢川に降りてみると発電所があった。9月末まで工事とのこだが、発電所周辺が公園になるようである。おそらく地下に発電施設があるのだろう。完成したら是非また行ってみたい。

というわけで、今日は西天竜幹線水路をたどってみた話だったわけだが、実に興味深い体験になった。オトナの社会見学といった感じである。それにしても、天竜川よりもだいぶ高い位置に水を引いて、26kmもの水路を作り、貴重な水を平等に使うために円筒分水を考えた先人たちの知恵と根性には頭が上がらない。「かんがい」深いとは、まさにこのことだ。

西天でんでん広場がオープンしていた

以下、2023年12月の追記です。

西天でんでん広場(南側入口)

久しぶりに西天竜発電所を訪れてみると、7月には建設中だった公園が、いつの間にか完成していた。「西天でんでん広場」というなんとも言えないネーミングである。

西天でんでん広場(広い芝生とベンチが並んでいる)

公園のほとんどが芝生になっていて、ベンチも並んでいる。5月頃にはきれいな緑色が見られるだろう。入口がある南側は芝生ではなく砂地になっていて、そこにはいくつかの遊具がある。芝生エリアと遊具エリアが分かれていて、非常に好感が持てる。芝生の中に遊具が点在しているスタイルの公園もよくあるが、公園好きからすると嬉しくない。

発電所の建物(地下に発電所がある)

公園の一番奥には発電所の建物があり、人工芝が敷いてあるところの真下が発電機になっているようだ。天窓が設置され、のぞき込むことができる。さすがにここは芝生にはできなかったのだろうか。

建物の一角にはきれいなトイレも完備されている。そして、写真では分かりにくいが、建物の奥に駐車場が10台分くらいあり、EV充電器も1台ある。それから、なぜか大型マスが2つあったが、道の狭さ的にはマイクロが限界だろう。なお、自動販売機はないので、ドリンクは買ってから行ったほうがいいだろう。(いずれも2023年12月時点の情報です)

小沢川沿いなので、アクセスはそれほど分かりにくくはない。農道からは荒井橋の信号を上り、旧農道からは小澤の信号を下るだけである。公園入口の右側にある側道を100mくらい進むと駐車場だ。たぶんそれほど混まないだろうし、しばらくは穴場の公園だと思う。