公園には、何組かの恋人たちがいたが、私は、自分と幹生が一番、せつないと思った。

(山田詠美「ひよこの眼」より)

その物語の中で、私の一番好きな一節だ。読者が悟ることさえできない、そのせつなさの深い部分。背筋がゾクッとするのだった。

このblogをご覧になっている方の中には、中学や高校の国語の教科書で山田詠美の「ひよこの眼」を読んだことがある方も少なくないと思う。あの短い傑作は、何度読んでも泣ける。読者はその酷な展開をどうにもすることができないまま、ただ取り残される。そんな気がしてならないのだった。

今日紹介する山田詠美「晩年の子供」は、表題作から始まり「ひよこの眼」で終わる、8編からなる短編集。タイトルのとおり主人公は「子供」であるのだが、ひと味、いやふた味も違う子供たち。何かを悟っているかのようなその様は、好奇心のようなものでもないし、それは私の少ないボキャブラリーによって伝えることは難しい。

でも、読んでほしい。高校の教科書で「ひよこの眼」だけ読んだ人も、もう一度読んでみてほしい。今のあなたは、どう感じるだろう。

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晩年の子供(山田詠美)